AWSと国内DCサービス

自分的な話題なので書いておきたい。

まず立場的はっきりさせて置く。AWSを基本的にはエンタープライズ・ユースで考えています。もっと直裁にいえば、Asakusaの実行基盤として、すなわちEnterpise Hadoopの実行基盤として見ています。クラウドの利用は単社ではできないことをできるのが特長であり、それは現時点では分散処理です。多数のノードを利用する分散処理は、単社で持つにはコスト的にペイしません。ので、一種のハードの共同利用としてクラウドを利用すべきです。単純にレンタル・サーバーの延長上で見るのであれば、クラウドのメリットはないでしょう。分散処理を一定の計算資源を利用して行うことがクラウドでできるかどうかがポイントと考えています。AWSは十二分にこの目的には合致しています。特にパブリックではないVPCの存在は非常に大きい。

(分散処理としてHadoopMapReduceが最適か?という議論については、勿論、最適とは言えません。ただ、これはそもそもMapReduceの特性によるものであり、より効率的な実行基盤がすぐに出てくるのは必然だろうと思っています。ただし、現時点ではMapReduceはbetterな選択肢として選択すべきです。)

その上で比較や諸般のコメントですが・・・

[総論]

まずAWSに対する評価についてですが。これほどユーザーとDCサービサーの「評価」が分かれているサービスは個人的にお目にかかったことがないですね。

E/Uにおいては、まず間違いなく高い評価です。特にコスト。これについては正確に計算すれば、そうでもないという話があるが、我々が正確に計算すると、平均の普通の半分になります。なので、そのままお客さんに見せています。「安いね・・・・」以外の反応は今のところ見たことはないです。

次にDCベンダー。高い評価の会社は一社もない。もうこれは笑っちゃうぐらいないですね。曰くは「ちゃんと計算すれば高い(はず)」なぜなら、「AWSは自社のセンターではなくて他社のセンターを借りているから、原理的に絶対に高くなるのはわかっている」なるほど・・・おもしろいのは、ほとんどのDCサービサーが判で押したように同じようなコメントが出ます。はっきりいうと私の陣営は基本的にはDCサービサーなので彼らが自分に嘘をつくインセンティブはまるでないです。多分本音だと思うし、計算もしているはずです。

ただし・・・比較対象が違うよ、ということは指摘しておきたい。例えば、ファミ通様のAWSの比較対象はNクラウドではない。T林のセンターを比較すべきである。AWSとはレベルが違うだろ・・・という声もあるとは思うが、その手のDCと普段接している我々からすると、国内DCの方が手間が圧倒的にかかる。これはコストに跳ねかえる問題です。レベルに違いはないですよ。

[各論]
・コストについて
ランニング:ぶっちゃけサーバーを無意味に立てっぱなしにすると、AWSでも結構かかって、最終的には大抵は普通のDCの5割程度になる。その意味ではある程度の制御は必要です。それをやらないと国内DCとの差は縮まりますね。それでも差はあります。

セットアップ等の運用設計:これは致命的に違います。まず大抵のSIでは中規模以上であれば国内系は普通に数千万はかかります。さらにいうと、それだけかけても手取り足取りになることが多いです。我々業務屋やインフラに詳しいE/Uから見ると信じられないことが多いのが現実です。

・DBサーバーを真顔でDMZにおく会社とか普通にある。「うちはそれがデフォルトです」そーですか。なるほど。
SSLの設定ができないとかというときもある。大ジョブですか?わかってますか?
Firewallの設定で100万円というときもある。何をしているですか?具体的に教えてください。

すべて別の別々の国内DC様です。しかも運用設計で何千万もとるところです。残念ながらこれが現状です。

勿論各DCには神の如く、インフラを手足・指先のように扱う人はいらっしゃいます。(そうでないと社会インフラが崩壊しますので。)全滅というわけではないです。むしろ「運用」のトップエンドでは国内DCにもAWSにはひけを足らない人はいるでしょう。というか、います。ただし、そういう人は極めて極めて少数で、全体の数%でしょう。国内DCもそういった人材を増やして、何してるのわからない人のコストを削減できれば、AWS相当のコストにはなるはずです。しかし、それは多分できませんね。会社組織的に無理だと思います。これは根が非常に深い。

(あ、それからサーバーを頼んでの納期までの時間のメリットというのが、AWSで上げられますが、エンプラだとそうでもないです。これは実際はあまりAWSのアドバンテージにはなってません。)

・Availability
まずは例の大規模クラスの事故ですね。これは正直に言うとAWSの方が多いと思います。国内ではあのような事故は普通は起きません。理由はかんたんで、それほど高度なことはやっていないからです。高度なことをやると時として、極端なカタストロフィーを引き起こすことがありますが、それですね。基幹系でも一斉に改札が死んだとか、ネットワークが全滅したとか、たまにある話です。AWSは極めて高度なことをやっています。見ればわかります。EMRにしろS3にしろ、未だに追随できてません。ただし、その高度さのデメリットが必ずあります。なので、利用する場合は、どう待避するかということになります。これはAWS自体の中でやれる話でもあるし、それこそ国内DCとの連携もあるでしょう。

・技術
繰り言になりますが、ほぼぶっちぎりでしょう。比較になりません。中に入っていないのにわかるのか?という話はありますが、外からみてもあからさまです。ということは中ではもっとトンデモない差になっていると思います。ちゃんとした技術屋であれば、ほぼ自明です。えらい人にはそれがわからんのです的なアレです。

(一晩寝て、これじゃーちょっとな、と思ったので追記します)
個人的に技術が顕著差が大きいと思うのは、大きく一点、中くらいで2点です。大きな違いの一つはS3で、特にパフォーマンスが劣化しないという点は凄いのです。これに相当するサービスというか仕組みはまったく追随できてません。ベースの技術が違うとしか言いようがないです。

あとの二つは、まずはEMRですね。これに相当するサービスも実はできていない。これもそう単純な話ではなく、下位レイヤーの部分が相当進んでいないと無理。

最後の一点は実はセキュリティです。冷静に見るとアレ?これどーやってんだ?ってのが、時々顔を出します。勿論、完全機密なので情報はいっさい表にでないと思いますが。このあたりも相当差があるな〜、という感じです。

コンプライアンス
正直あまり公平とは言えませんね。ただし、これは日本DCができたために相当意味合いが現在異なっています。基本的にAuditだろうと、AgreedUponだろうと、最終的には心証の問題になります。その辺りは今後の課題ではありますが、AWS次第の部分もあるでしょう。

・運用そのもの
さてここです。国内DC屋からするとどーなんだ、というところでしょう。まず現状からいうと国内DCに軍配があがります。AWSのサポートはまだエンプラ・ユースには至っていません。受け答えを見ても、むしろB2C系の「クラウドってそんなもんです」的な気配はします。が、他のクラウドベンダーよりは上ですね。ここが良くなるかどうかは未知数ですが。東京DCが立ち上がったばかりというのは割り引かないといけないでしょう。正直、E/Uが直接利用するものではないな、というのが現状。これはAWSのエンプラユースを考えているところは同感されると思います。まぁ一次切り分けは表に普通に一枚要りますね。ここは課題ですね。

・営業
これは国内DCの方が特に物量的に全然上。これはしょーがないですよ。まず絶対数が圧倒的に違うw。営業が十分に機能している場合は、ユーザーニーズが正確にあがります。客先回って声を聞くということが大事です。ここの営業がAWSができるかどうかですが、今の物量がたりてませんね。ただ、物量のある国内DCがちゃんと顧客の声を聞いているか、というとまぁ聞いてませんがw。

そんな感じの比較になります。総合すると「技術が高くて安いので、分散の実行環境としては企業ユースとしても最適である」というのが結論です。ただ問題もあるので、順次片付くのではないかな、と見ているというところです。正直、全部がバラ色というわけではないです。が、デメリットを上回るメリットがあるということと、そのデメリットをカバーアップできそうな状況だと言うことです。あとは、後ろ向きの理由として、まぁ国内DC様と比較すると、差が広がりつつあるね、ということです。