クラウドのためのクラウド〜VMware Cloud on AWSの意味

記事とか詳細とかはこっち

http://www.atmarkit.co.jp/ait/articles/1708/28/news097.html
https://cloud.vmware.com/vmc-aws

http://www.publickey1.jp/blog/17/vmwarevcloud_air.html
まぁ概ねこんな感じ

単純に見れば、AWS上でVMWareが使えるので、VMで動いているシステムがそのままAWSで使えるようになりました。便利ですね。はい、おしまいの話ではある。が、それは二重の意味で「表層的」な見方だ。そもそもVMWareクラウドから撤退し、AWSの軍門に降ったというエポックメイキングなものとして見るべきだと思う。

・ハード調達の争いの決着

結局のところ、DCを含めたハードウェアの調達という点で、競争に決着がつきつつあるということかと。VMWareの規模をもってしてもAWSの調達コストを達成することは困難であったということが明確になった。もともとサーバの「生産台数」という意味ではGoogleAWSが覇を競っていたわけで、さらにその他大勢との差が決定的になった証左だ。そもそも「サーバ」と言っても、GoogleAWSの「サーバ」を市場に出ているサーバと同義で扱ってよいか、という問題もあるが、要は「計算リソースの調達」コストが段違いで差がついてしまっている、ということだ。まぁ桁が違う、というのが現状でしょう。

現在のところ、ムーアの法則の限界はむしろサーバ自体の高集約化、すなわちサーバアーキテクチャの変更の流れを加速させつつある。サーバの耐用年数はさらに短くなってきている。これも調達競争の「強者有利」の状況を作り出している背景にあると思う。償却がどんどん進むのであれば、数量が出せるので、バイイング・パワーはより強く働く。

今回のVMWareの白旗は、クラウド時代の一つのメルクマールになると思う。今後はさらに加速して割と一方的な展開に進むような気がする。AWS/GoogleにどれだけMSやOracleが迫れるか、というレースになる。そこそこの規模があっても自社インフラでクラウドサービスというのは競争力がなくなっていく。

こうなってくると今後は、サーバの分化がより激しく進む。すなわちクラウド用サーバとオンプレミス用サーバはもはや、ほぼ別物として見る方が正しいのではないか。クラウド用サーバはよりDCの「部品」としての性格が強くなるだろうし、オンプレ用として利用することは無理だろう。その意味ではコーナケース的な極端なワークロードを実行した場合、今後はクラウドとオンプレでは挙動が変わるということは想定すべきかもしれない。また、今後のサーバの生産でのクラウド用のものシェアがどんどん高くなれば、むしろオンプレミス用のサーバは、言ってみれば一種の特注の「専用サーバ」として、「逆ガラパゴズ」状態になる可能性もある。そんなこんなでいろいろ影響が徐々に出てくるだろう。

・焦点としては二つ。一つはN/W

クラウドの本質はネットワークだ。これについては異論は少ないと思う。クラウドの硬質な部分はここに集約される。DC内部・DC間のネットワークをどのように構築・運用するかがクラウドの背骨だろう。ここがこんがらがったり、SDNのようなメンヘラな話で突っ走ったりすると、トラブルが起きたときになにが起こったのか理解できないということになる。

この部分は、特許を含めてIP戦争の主戦場だったり、その一方で、人間のつながりでは一種のマフィアチックな「村社会」の様相もあり、簡単に資本と論理で切り込むことができるところではない。さらにグローバルな意味であれば、国家レベルの介入は実際普通にある。Googleがこのあたりで文字通り“エキゾチック”な動きをしているのは有名な話だ。クラウドのためのクラウドということの意味は、ネットワークでどこまで主導権をとれるか?ということの影絵でもある。AWSのその勢力図での位置づけも明確になってきたということだろう。

・もう一つは「DCのあり方」

AWSがひとつステージを上げたという意味では、今回ポイントになるのは、間違いなくDCの調達・運用・保守の「パッケージ化」だろう。AWSは「クラウドのためのクラウド」という、より低レイヤーでありながら、そのレベルをパッケージ化してVMWare等に提供している「B2Bクラウドベンダー」だと思う。これは別にVMWareだけに提供を限定する必要はなく、自社に最適なミドルを構築運用できる能力、すなわち別段AWSのサービスを利用する必要もないレベルの構築能力のあるユーザにもそのまま提供しているとみるのが筋だろう。

「ハードの調達」の意味がやはり変わってきているのだろうな、と思う。どこまでが運用か、どこまではサービスか、というのは議論の分かれ目にはなるが、DCレベルまでスケールした、できるだけベアメタルなクラスターとNWとその保守・監視を合わせた意味での「ハードの調達のパッケージング」というスタイルが登場しつつあるのだろう。

ユーザから見れば「データや処理」がビジネスの肝要であり、ハードは極論すれば安ければ安いほどよい。またAWSにして見れば、実力のあるユーザに対してサービスレイヤーで喧嘩する必要はなく、ハードレイヤー以下で実をとれれば十分win-winの関係は構築できる。勿論、AWSからは低レイヤーのログを見ていれば、上で何をやっているのかは想像はつくだろう。AWSとしてはサービスをパクる気は満々だし、ユーザから見ればベアメタル的な利用はロックインの度合いが低いのでいつでも鞍替えできる状態だ。その意味ではwin-winとは言っても、お互いにいつでも背中を刺せる関係ではあると思う。というか刺す気満々な感じかな〜とも思う。

・専用クラウドとユーザのあり方の変化

もちろん、AWSの戦略としては、当面はVMwareのような「あすなろクラウド」の敗残兵の回収と、ミドル以上は自分でやるからいいよでAWSから逃げ出した一部のパワーユーザへの妥協案の提示であることは明々白々だ。

ただ、俯瞰で逆さまに見れば、クラウドのためのクラウドというビジネスが登場しつつあるということは、「DC調達を含めて、大量の良質の安いマテリアルを提供されて、それを調理できる”強い”ユーザ」の登場をも予感させる。

こういった自力でミドルまで含めて自社最適なプラットフォームを構築する、これを流行の内製化とみるか、はたまたDevOpsのひとつのスタイルとみるか、または「企業のソフトウェア化」とみるかは見方の問題でしかないが、こういった企業がどんどん登場してくるだろう。今後のAWSSaaS/PaaSのライバルはこういった企業だろう。ひと昔まえ、パッケージ製品の競合はユーザ企業の情報システム部だ、という競合関係があったが、この相似形がそのまま現れる。

こう言った強い企業、・・・個人的には「強い」企業という言い方が一番しっくりくる。(例えばアルパインクライマーの実力の表現では、「技術ある」とか「スタミナがある」とか「足が速い」とかそういう個々の要素ではなく、シンプルに「強い」という言い方がよくされる。全般的に山に負けないというか、死ににくいというか、タフというか、単純な技術的な要素に還元されない「強さ」をもつ人をいう。そんな感じの企業かな)については、どうしてもIT屋的には還元主義的に評価することが多いが、そうではなくて、総合的に強いという俯瞰的な見方で観察したほうが良い。そういう企業が頭角を現してくるような気がする。

ITはやはり道具のひとつでしかない。ただ、その道具を単に使うのではなく、無意識のうちに極端な形まで使いこなすことができ、かつ場合によってはITを利用しないということすら功利的に判断できる、そういった企業、「包丁をもったら、全てが切れるものに見える」というシンドロームにかかるのではなく、「必要であれば、自社に合う包丁をつくることも辞さない」そういう柔軟な企業が、言って見れば「クラウドのためのクラウド」と共時的に登場し、「Private Dedicated Cloud」を使いこなすだろう。

・3層のクラウド

ユーザ側ともかく、ベンダー側から見るとクラウドアーキテクチャのあり方は多層的になっていく。ユーザ・アプリケーション、従来型のクラウドクラウドのためのインフラクラウドのような3層構造を想定していく必要がある。率直に言ってやりにくい、というのが実態にはなる。特にサポートという観点では絶望的に情報が取れなくなるだろう。SIという意味だと、一番上だけ見るような役回りだとトラブル時には厳しいだろう。

いわゆるクラウドインテグレーションという位置づけも変わる。Private Dedicated Cloudを扱う、ということであれば、必要な人材は正統派的な「下位レイヤーまでちゃんとわかるSE」ということになる。単純にAWSAPIの使い方・ノウハウありますよ、という人材は、表面的なAWSのみで問題ない、というユーザ企業に対してはアピールポイントになるが、本気で「B2Bクラウド」を使おうとする強い企業には必要ない。結局、強い企業が必要する人材・サービスは、基礎のできる人間/組織になるという、ある意味当然の結果になる。

クラウドためのクラウドというプレイヤー

クラウドインフラの提供者という意味ではメガクラウド系はすべてそのチャンスがある。筆頭Google・Azureだろう。現時点では考えにくいが、facebookにも可能性はある。それぞれの色がでるクラウドインフラの提供は「新しいスタイルのクラウド」を生み出すことにもなる。Googleなんかはまた面白いだろう。WMとの提携がカウンターカルチャー的な衝突を越えて、なんか変なものが出てくればそれはそれで面白い。またOracleがどういう立ち位置で臨むのか。この近年のDBルネッサンスの中で進境著しいSAPがどういうスタンスをとるのか。いろいろと興味深い。そう言った意味で、今回のVMWareAWS稼働は意味がおおきい。大きな地殻変動が一部表に出たと見るべき案件だろう。

・それでAWSの弱点はないのか?

最後にどうでもよい話題をw。ここまでAWSが支配的になってくると弱点がないように見えるが、個人的には(なんでもそうだが)思わぬところが死角になると思う。例えば、本体のAmazon.com。先日WFを買収したのは発表の通り。これはどう見てもCCがほしいだけで店舗とか興味ない気がする(あとはPBか。でも今更感しかないが)。んで、どうみてもこの背景はFreshの苦戦に見える。.Comの物流基本戦略はやはりDCなんで、チルドのTCとか今からXDつくるとかノウハウ・コスト的に無理筋だったのではと思う。チルドや生鮮等の類いはスケールメリット裏目に出る。Amazonがその領域に手を出し始めて、苦戦しつつあるようにも見える。勿論、AWSとは何の関係もないが、そういうところからおかしくなるのは巨大企業ではよくある話ではある。(まぁ逆に言えばAWSそれ自体には死角はないように見える)