客先常駐について

客先常駐は増加傾向に見える。

別に統計資料はないので、どちらかというと体感的なものだけど、ベンダーからユーザーへの常駐は増加している気がする。これはまぁスタイルはいろいろで、完全に委任契約のものから、継続SIを仕事として請負契約の形になっているが作業的には客先にずっといるというスタイルのものをある。ベンダーの人員というよりも、ベンダーの下請け・孫請けが常駐していることが多い。さらに、多くの場合、戦力になっているのは、フロントの一次受けではなくて、下請け・孫請けの部隊だったりする。そんなこともあるので、地方の中小企業の場合は、さすがにフロントのサヤ抜きが、馬鹿馬鹿しいので、直接に契約に切り替えることも多い。

いずれしても、SIという位置づけのものまで含めると、この種の「派遣の一種」のような常駐モードの人員は相当いて、SEから運用・コンサルまでITに関わる分野では、非常に幅広くかつ大きなビジネスになっている。

当然ながら、客先で常駐というのは、働いている方からするといろいろ問題がある。基本的にモチベーションは下がる。少なくとも、個々人としてはある企業で働く覚悟をもって就職というか、入社したわけで、最初から「派遣」全開を想定しているわけではない。派遣で2年や3年、ましては10年近くになるとモチベーションも下がる。まぁ、飽きも来る。いくら長いとはいっても他人の会社であるので、コミュニケーションもなかなか難しい。さらに、長い間客先常駐だと、そもそも自分のキャリアパスをどうするか?という点でもいろいろと前線低気圧で空模様も怪しい。唯一の楽しみとしては、先端系のことをやっているのであれば、そこで技術的なものを得るチャンスがあるぐらいであるが、これはそもそも本末転倒であり、「派遣元」の企業でそういう経験を積んだ上で、現場に出すのが筋である。そんなことも期待できないという、少々自虐的なスタンス有れば、まぁ多少の立つ瀬もある程度だろう。(意外に現実だったりするが)

残念ながら、この「派遣」構造が、きわめて需給にマッチしており、増えることはあっても減る事はない。

「派遣」する側:とにかく簡単に売上を上げることができることが大きい。さらに委任であれば、納品責任もないので、赤字になることもない。人を入れれば入れるほど、売上・利益があがることになる。数字が足りないのであれば、これ以上都合のよい仕組みもない。IT産業の大きなポーションがこの部分を占めている。SI屋から始まって、コンサルまで枚挙に暇はないだろう。しかし、これはとてつもなく自転車操業になる。プロダクト・サービス開発という意味では、手元にR&Dを行える人材がいなくなるので、とてもできない。また、派遣の規模が大きくなればなるほど、一旦、切られたあとの売上の落ち込みをカバーすることが厳しい。

IT企業の利益の源泉が「技術」であれば、派遣ビジネスはそもそも企業の目的の趣旨とはやっていることが違う。技術を売っているわけではなく、要するに「人」を売っていることになってしまう。そして、具合が悪い事に、これがうまく続くとそこからの転換は圧倒的に難しい。ほぼ不可逆に近い。

「派遣」を受ける側:とにかく使い勝手のよい人材をゲットする最短経路である。基本的に日本企業でITを司る部隊は間接部門・バックエンドであり、採用をするとキャリアパスの設定に四苦八苦する。どの会社も間接部門の人員は抱えたくないし、そのコストはできるだけフロントに振向けたいのが実態だろう。したがって、受けてみてスキルセットが違うのであれば「チェンジ」も可能であり、いざとなったら「お帰り頂くことが可能」な派遣は、とくにITに関しては願ったりかなったりだったりする。

あとはそもそもユーザ企業では、ITのスキルを持つ人間を採用・育てることが難しいという側面があり、派遣に頼らざるを得ないということがある。ITのスキルセットを身につけたいという人間は、最初からユーザ企業の一括採用に行くことは少ない。IT専業の企業に行くのが普通の発想だ。つまり、そもそも採用しづらい。中途で採用するにしても、質と数をそろえるのは困難を極めるので、体制含めて「任せざるを得ない」という実情もある。

というように、需要と供給の都合がうまくマッチするので、マーケットとしては固い。鉄板。いわゆる一般職的な派遣であれば、法律の枠があったりして、派遣問題がクローズアップしたりして、いろいろ社会的な問題になるが、ITについては、仲介的な派遣ではなくて、作業の効率上、IT屋の社員を客先におかせてもらって作業をしている、という感じになるし、賞与・昇級も一応、IT企業内部ではあるので、それほど大きな問題にはならない。当面は、増えることはあっても減る事はない。

ただし、働いている人員の擦り切れ感は、ちょっと人間としてどうなんだというレベルまで行っていることが結構ある。実態を見ていると、見てる方まで不健康になるレベル。「結局ユーザにしても、ベンダーにしても、エンジニアのことをモノ扱いしてないか?」と思うのよね。いや、そんなことはない、と言うとは思いますが、どの大きな開発現場にいっても、小さな机+椅子+ノートパソコンで、ずらっと人が押し込まれているのが現状で、これなんすか?と聞くと常駐ですよ、と。・・どこの強制収容所だよ、とか思うわけで。

んで、これ確実に疲弊するというか、物理的かつ精神的に摩耗するわけで・・・この現状の改善をSI屋の経営陣やユーザに期待するのはやはり難しい。

まず、別にSI屋の経営陣やユーザが「これがベスト」だとは全然考えていないことがポイント。「できればなんとかしたい、けど、どうにもやりようがない」ってのが、現実。確かに、「数字しかみない」って豪語するどうしようもない経営者もいるが、そういうのはやっぱり少数派で、どうにかして、こういうスタイルから脱却したいっていう経営陣がほとんどだ。しかしなんともできない、というのが現状。身動きがとれない。

さて、この袋小路の客先常駐ビジネスのデッドロックにさらに、しばしばセメントな要素が加わって、もうどうにもこうにもならない状態になることがある。「内製化」である。

まず、断って置くけど、個人的には内製化は進めるべきだと思っている。いろいろ理由はあるのだが、基本線は、SI屋の技術キャップがそのままユーザに転移するのが、現状のSIビジネスの大きな副作用なので、これを取り除くにはユーザが自力で技術要素を取り込めるようにすべきだ、というところである。

この内製化は本来インソースで賄うべきだが、現実には「SIパートナーからの常駐派遣」になっている。SIサイドから見ると委任契約なのでノーリスクだ。ユーザサイドからすると、結局のところ採用が困難かつ面倒なところに簡単にそこそこ優秀な人材が手に入る。願ったりかなったり。開発のイニシアティブをユーザが(実現可能性はおいて)握れるので、ユーザにしてみれば、まさに次世代型ITの投資がやっと主体的にできる、すなわち「先を見たITがウチもスピーディーにできるようになる。」

で、実はこの内製化はご想像の通りいろいろ炎上案件化しつつあるようだ。まず、内製化の炎上案件はめったなことでは表に出ない。ユーザは自己責任でやってるので、啖呵を切る相手もなく、炭火になるまで抱え込むしかない。大規模開発案件の内製化で失敗しようものなら、それこそ責任転嫁できないどころか、代表訴訟ネタだ。なので、表には成功しますた!とやるわけで。ベンダーからすれば「それ見たことか+どんどん人なら出しますよ、お金はくださいね」的な展開なので静観の構え。

とはいえ、最後は「どーしてくれる」のユーザごり押しになる可能性もあるので、よく見ると、ユーザとベンダーのある種のチキンレースっぽい展開にはなってしまっていて、お互いどんどんレイズしている感じで、現場の人間はいい面の皮だ。内製化は人員の問題ではなくて、「(上から下まで含めた)企業のありかたの問題」だという意識がないので、普通に失敗する。

そんなこんなで、ITゼネコンは、文字通りにゼネコン以上にゼネコン化しつつあるわけで、それも肥大化しつつある。いろいろ厄ネタ満載で、そのまま人工衛星大気圏突入で黒焦げ。

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こんなことがいつまで続くのだ、という話だが、やはり2020年〜2025年にひとつの峠がくるだろう、というのが一つの見方。大方の人間はほぼ同じ意見だと思うが、「景気はオリンピックの2020年までは、まぁこんな感じで続いて、その先はちょっとどーなるか読めないけど、いろいろ問題が噴出するだろうな」という感じだと思う。「大体、みんな同じ感じで考えている」というのがポイントで、そういう場合は自己実現的に動くことが多い。

この場合、理屈は簡単でユーザはコスト削減に舵を切る。

大幅・小幅の違いはあるだろうが、「過剰な投資」は普通に整理にかかる。まぁコアだけ残して人減らせ、という話になる。んで、全部撤収はほぼないだろう。それだけユーザの「情報システム部」のアウトソーシング化は歯止めがかからないところまで来てしまっている。したがって全面的に整理という形にはならないが、自社での人員のヘッドカウントはまずは減らせ、または「厳選しろ」という話にまず間違いなくなる。形式上は新規のPrjを一時縮小するとか、そういう形をとるだろう。ヲイヲイまじかよ、という展開になって一人当たりの仕事は、まぁ増える。いろいろまずい。

たぶん、修正をやるのであれば、ここが潮目になる。

とはいえ、その時点ではおそらく軌道修正の「原資」はない。これはSIサイドも、ユーザサイドも、そしてエンジニアサイドも同じだ。言ってみれば、三者三様にピンチではある。ただし、これはたぶん最後の「チャンス」になるだろう。現状の路線はどう逆さに振ってみても変更は不可能で、がっちりデッドロックしている。皮肉なようだが、なんらかの「縮小」または「整理・見直し」が唯一のチャンスになるだろう。ただ、もう一度言うが「原資」はない。もちろん、いろいろ事前に準備していれば、話は別だ。

ユーザ:まじめに「本当に内製化」をするなら、この時点でちゃんといろいろ見直すべき。ただし、ちゃんと根回しとか方針を決めておかないといきなりは全然無理だし、肝心のエンジニアには逃げられる。縮小気味のときこそ、ITが自社の背骨かどうかの試金石になる。そういうスタンスで臨めるように「今から」準備しておくことが肝要だろう。

SI屋:数字が下降気味になったときにどうするかは、その時に考えても遅い。ある程度売り上げが維持できている状態では、無理に勝負に行く必要はないが、弾は込めておいたほうがよい。先が見通せない状態ほど博打は打ちやすい。ただでたらめに撃っても仕方がないので、その時に最小のリソースで手が打てるように、今の時点先行して何かやっておくことが必要だと思う。

エンジニア:さてどうするか?という選択を落ち着いて行う時期になると思う。今の過熱気味の市況で動いたメンツは、やはり「easy-come, easy-go」になる。高コストで仕事がないメンバーと、低コストで地味ながら確実に顧客の心臓に握っているメンバーとどちらを雇用主がとるかは自明だろう。また、現場SEとしても、縮退はいろいろと負荷がかかる。常駐やら固定リプレースSIやらの専業で、特定業務のプロとはいいつつも、実際は潰しがまったく効かないノウハウをもったところで先がないだろう。5-6年はよい。いい経験にもなるし業務知識は血肉になるだろう。ただし10年は居すぎだ。給料も上がらない。

各自、プロとしてワンダーフォーゲル決め込むならばそれはそれでよし。また、これを契機に腰を据えて先を見た組織に移るもよし。いずれにしろ、手持ちのカードが複数あることが前提。ユーザもSI屋もいろいろ整理にかかるだろう。移動しても後腐れはない。

今のSI屋・ユーザの需給の歯車はがっちりかみ合ったまま進む。ただし、徐々に同床異夢が明確になるだろう。金の切れ目が縁の切れ目、それがいつ来るかは、容易に想像できるはずだ。そんな感じ。まぁ今はある意味だれにとっても本質的にはノーチャンスには見える。