日本社会はロボットによる労働力不足解消の夢をみるか?

どちらかと言うと関係者向け。

 

とある事情でロボットとかCVとか、いろいろAI系(の一歩手前)に関わることになっている。業務系IT屋と今後のマーケットの視点で書いておく。最初に断っておくが自分はロボットに関しては素人なのよ。なので、だからむしろこれから書くことは間違っている可能性もある。単純に「外側から見た考え方の一つ」だと思ってもらっていい。そのつもりで書いておく。

 

前提はNCやFAと言った工作機械の延長のものではなく、あくまで人手の代替を行える水準のものを想定する。ま、極論いうと「劣化版「鉄腕アトム」」だ。

 

現状全般

一般に言われていることであるが、日本は世界歴史上ないかつてないレベルの高齢化になっており、少子化対策の失敗からの労働力不足に思いっきり正面激突して半死半生である。こういう大惨事のさなかに、この労働力不足を真面目にロボットで補うという、まさかのSFチックなこれまた世界史上例のない試みに向かっている。というか向かわざるをえない。というかほかに選択肢があったら教えてほしい展開になっている。

 

たしかにそれは極端過ぎるだろう、という意見もあるとは思うが、そこまで追い込まれているところもあるのは事実だし、後から記述するようにそれほど条件が悪いというわけでもない。

 

通例的には、諸外国の例ではこういうケースは移民や外国人労働者で補う。たしかに現在の日本でも就学生や外国人労働者は多くはなった。現在は、なし崩し的に行っているケースが増えてきている。社会的なルール・整備も行わずに場当たり的な方向に進めている政策も出始めているし、実際に、なんの考えもなく「この手の話」に携わっている人も結構見る。

 

が、国民意識的には確実にこの手の「外国人の輸入」には「なんとなくノー」の方向になるだろう。隣近所で母語が通じない集団がやたらめったら増えた時の、既存社会の抵抗感やその結果の軋轢・社会問題化はすでに欧米で顕在化している。これは周知のとおりだ。その時の社会問題の深刻化は、「場当たり的な政策に安易に携わっている人」の想像を超える。特定のNative Japanese speakerに対してですらヘイトスピーチのような問題が発生する日本で、Non-native Japanese speakerに対してどんな動きになるかは簡単に想像できるはずだ。(個人的には日本の場合はまちがいなく、「福島」がまず最初に日本の“Ganz unten”になると思う。真面目に日本の恥になるので、この手の話はせめて福島のメドがついてからにしてほしい。)

 

現状のロボット導入論

さて、ロボットだ。・・・おいおい、ロボットかよ。というちょっと前ならば荒唐無稽にとられかねないぐらいの話が、無責任なAI論やシンギュラリティ論といった、現状の実装をみればどこでそういう妄想が沸くのか理解に苦しむレベルの言説に後押しされて、まじめに各所で語られ始めている。そして、残念ながら後先を考えないPoCや試験導入も散見されている。

 

具体的にどういうところでPoCとか導入論がささやかれているかというと、自分の見ている限り全日本労働力不足地獄の二大辺獄たる小売流通業と介護産業のケースが多い。若年層労働力不足はほぼ今後も解消される見込みがない中で、小売(流通・物流)/介護ともに一種の労働集約的な巨大B2C産業の代表選手であり、比較的抜群に「人手が足らない」。その意味では、ロボット的ななにかの導入は避けて通れない道、筆頭にいる。

 

幸か不幸か、仕事的に両業界には程度の差はあれ関わっているので、ある意味、ギャップが顕在化するその先鋭部分に立ち会っている感じになっている。一回整理しとく。

 

ロボットそれ自体の話

-デバイスとかのハードウェアの周り

バイス周りといってもまさに多種多様で、それこそ「鉄腕アトム」の各パーツごとにまるで違うという状況。さまざまなハードウェアが必要になる。このハードウェア全般は、見ている限りではおそらく日本は世界的にかなりの高水準にある。ロボットでは基本的に精密動作が求められるため、制御が適当でよいというわけにはいかない。この点で日本企業とその技術は製造技術を含めて、トップエンドにある。

 

グローバルで見た時の優位性は、おそらく単一技術・単一企業での強みというよりも、「やっているところが多く、その幅も広い。自社製品や技術のどの辺が劣っているか?が、わりとわかりやすく、技術的な切磋琢磨がしやすい」という風に見える。割と「俺TUEEEE」やった途端に「オマエYOEEEE」の突っ込みが瞬間で入る業界に見える。ある意味ホントに凄い。

特定の企業の特定の技術にどっかのGoogleが金だしたからすげー、とかいうのは多分、根本的に間違っている。周りを含めた層の厚さが、日本のロボット産業の強みだと思う。

 

-制御システム

いわゆる組み込み系に属するところになる。OSSも含めて割と選択肢もそこそこ増えており、PoCレベルからある程度プロダクションレベルまでそろいつつあるように見える。特に決定的に足りないというものはないように見える。探すと「こんなものまであるのか」というぐらいまである。玉石混交という話をあるが、逆に玉も石もあるというのは強い。

 

-アプリケーション

残念ながら、ここが決定的にない。より正確な言い方をすると「ロボット業界の人が想定するアプリケーションと一定の業務で導入するために必要なアプリケーションに大きな溝がある」という言い方になる。今のロボット導入の考え方は簡単に言うと「超高機能な、移動する自動販売機」の延長線上にある。または、「頭のない鉄腕アトム」と言ってもよい。(まぁトレンドの自動運転も似たようなところがあるように見えるが・・・)

 

欠けている「インテグレーション」

まずもってロボットな現場では、我々の言うシステム・インテグレーションという考え方、それ自体がほぼ存在しない。「アプリケーション」という観点も「自動販売機の組み込み系制御ソフト的なもの」の思考の域を出ていない。要するに「複雑な業務例外処理」は考慮に入っていない。

 (まずいきなり留保だが、ロボット業界にも「システム・インテグレーション」という言葉はあるが、それはSI業界がいうところのシステム・インテグレーションとは似て非なるものだ。後述するが、それがまたよろしくないギャップになる。)

 

インテグレーションの観点で見ると、経験的には、この例外処理はシステム全体のコストの70%~80%にもなることがあるが、現状の「ロボット業界」はこのコストまったく見ていない。というか「知らない」というまさにこの一言に尽きる感じだ。

 

いままでこの手の話は「制御系・実行系」とバックエンドまたは「業務系」と完全に分けてきた。特に制御系は場合によっては人の生死に関わることもあるので、できるだけ例外系は排除し品質に振るというのが筋で、その分、例外のしわ寄せは業務系+人手で吸収というのが王道だった。これは社会インフラにしろ、運輸交通にしろ、製造業にしろ、普通にある話だ。だから、業務例外的なものはロボット系では考慮の外です、は特別な話ではなく、普通だ。これは「それで世の中が回っていたから、こうなっている」という話でしかない。

 

現状のロボット関係の企業・人材は、どうしても制御・実行系に属することが多く、その意味で「業務系」については、考慮しないというか、わからんというか、要するに「なんとかなる」と思っているフシがある。この状況はデスマ経験者ならば筋肉反射で理解するレベルだが、この状態で介護なり流通の現場なりに放り込もうとするので、ほぼ100%使い物にならない。ほぼすべての案件で「とりあえず一回やってみて今後は要検討=お蔵入り」状態でスタックする。

 

「AI」という言葉による隠蔽

このインテグレーション、またはアプリケーション、設計・実装のところ都合よく隠蔽する言葉になったのが、実は『AI』だ。ロボットに限らず、今の現状の「AI」は都合よくインテグレーションコストを吸収してくれるものという「ぼんやりとした希望的観測」が根底にあり、たとえばRPAあたりはそういう雰囲気を醸し出すため、誤解しか発生せず、結果大体うまくいかない。

 

この意味ではAIという言葉は、非常にマイナスになっていると思う。やるべきことをやらなくてすむという非常に魅惑的な幻想を提供するからだ。翻って、これはIT業界ではよいことは何もない。炎上はもちろん、失望感が蔓延し、市場も広がらず、結果、本来であればユーザ・ベンダーともに享受できたはずのトータルメリットがなくなってしまう。

 

・・・よくバズワードで資金が集まり、IT市場が活性化するという意見も聞くが、不正確なバズワードのなれの果ては大きな失望と不信であり、結果としての市場の喪失だ。失敗までのタイムスパンが長ければ、時間差を利用して一種のバブルを稼ぐことも可能であろうが、情報伝達のスピードが速い現状ではそういう取り込み詐欺的な煽りは通用しない。バズワード歓迎なIT屋とマスコミは全力で反省してほしい。まじで。割とまじで。「ロボット+AI」はこのままでは不幸をまき散らすだけだ。期待が大きいだけに、これはむしろ犯罪的ともいえると思う。

 

いずれにしろ、真面目に考えると、この「インテグレーション」の部分をどうするか?が今後の焦点になる。これは今までのSIとは、おそらく似て非なるものになる気がする。

 

(なお、ここで最初の留保に戻るがロボット業界での「システム・インテグレーション」は「ロボットのシステム(これはロボットの対象領域に閉じた系のこと)」のインテグレーションになっており、前述のような「業務例外系」については考慮していないことが多い。)

 

そもそもどういうインテグレーションが必要なのか。

 さっぱりわからない、というのが普通だと思う。

要件定義の最初の出だしの業務要件の洗い出しからして難航を極める。As-IsやTo-Beのような古典的な王道分析ですら、そもそも何がAs-Isかは相変わらず整理がやっかいだし、いわんやロボットを導入後にあるべき姿のTo-Beモデルを詳細に業務側から詰めろ、言われても「想像と妄想の産物」をTo-Beにしろ、という話にしかならない。

 

ソフトウェアのように軟性な仕組みであれば、アジャイル的な手法も有効だと思うが、いかんせんガチガチのハードだ。ちょっといろいろ変えてみましょうにも限界しかない。コストや時間もバカにならない。加えて、前述の通り、そもそもロボットの作り手にそういう経験が多くない上に、IT業界が「AIブーム」を造成したため、ユーザサイドも「いや、AIがなんとかしてくれるんでしょう?」という謎の期待もあり、期待ギャップは絶賛大拡大中だ。壁はエベレストより高く、溝はマリアナ海溝より深い。

 

さらに、そもそもインテグレーションコストがどのくらいで、どう吸収するかわからないという問題も発生する。これはバカにならない。しっかり要件定義から始めて運用まで考えると、案件あたりでSIコストは、数千万は普通だし、ちょっと間違ったらすぐに億は超えるだろう。

 

ということで。ロボット導入の話を流通と介護に限定して自分の考えを述べる。

 

まぁ普通に考えると「絶望的に打つ手がないので、どうしようもないですね」

で、おしまいです。だが、そうも言っていられないので、以下の自分のなりの解決案を「想像」してみる。なお、以下は僕の想像(というか目撃というかいろいろあってアレだ)であるけれども、現実にこの想像を実現しようしている人たちもいる。

 

現実の「ロボットとユーザ」のギャップの埋め方 

-進め方の問題

普通のSIのやり方であれば、現状の業務分析を行い、問題点を洗い出し、課題を解決するようにITの技術を導入する、というのが通常の王道になる。現行の問題点を解決するようにロボットを導入すればよい、ということになる。それでは、ロボット導入のSIにおいて、流通の現場なり、介護の現場でこれをやってうまくいくか、というと多分うまくいかない。

 

理由はいろいろあるが、大きなものは、まず単純にロボットを導入すれば、「小売・介護の現場の問題点が解決するか?」というと「解決しない」からだ。業務分析をして、課題解決にロボットいれましょう、とやると多分、結論は「当面は入れない方がいいですね」ということになる。

 

いままでのITは、IT側を人間に寄せてきた。うまく現場を回すためには、想定外に発生するトラブルや問題点を人の創意工夫で解消する方が効率がよいからだ。その邪魔をしないようにITをうまくアジャストして導入するほうがトータルでのビジネスのスループットは出る。ありがちのERPのコンサルがいいそうな「業務をERPに寄せろ」というのは、正解ではないことは多くの人が知っている。品質とスループットの背反する要求を、多少コストかけてもいいから同時に解決するという方向に倒してきたのが日本企業のやり方だ。このために、SIの要件定義から実装・リリースまでの流れは、ITを業務に寄せる、という考えかたを根底に置いて進められている。

 

残念ながらこの方法は現状の解決にはならない。

 

理由は大きくふたつだ。ひとつはロボット系は言われているほど万能ではない。制約の方が多い。これは現状ではどんなに頑張ってもやれることに限界があるということだ。たとえば、一般には信じられないとおもうが「双腕でものをちゃんと掴んで運ぶ」ということですら現行の技術ではやっとこなんとかできるのが最近だったりする。それでも人間の水準には全然遠い。(多くのロボットが単腕であるのは、言われてみればそうだなと思い当たる人が多いと思う。んで、実は双腕の方が精度・効率がよい。無用の用とはよく言ったもので、局所的には無意味だが、対象領域の取りようによっては有意ということは普通に頻繁にある。)こんなことはいくらでもあって、現在の小売・介護の業務の問題点を解決するには、今の技術水準のロボットでは帯にも襷にも短い。ようするにITを人側に寄せる、ということが極端に困難ということだ。

 

もうひとつはそもそもロボットでサポートすれば、どうにかなるというレベルの人手不足の水準はとっくの昔に通り越しているということだ。現状では際限なく時給もあげても満足にアルバイトすら集まらないというのが現状になっている。ロボットで人手不足を補う、というのは補うべきベースがあるのが前提であり、そもそもその前提が崩れつつある。

 

つまり、既存のSIの方法で、業務(小売・介護の現場)とIT(ロボット)のギャップを埋めようとしても埋まらない、埋めようがない、のが現状だ。なので、普通は「ロボット云々の前にやることあるだろ」っていう結論になる。

 

で、どうするか?という話だが、これは本末転倒だが、「SIをロボットに合わせて」行う、という逆の発想に倒すしかない。要するにロボット様が働きやすいように環境をつくって、人様はそのサポートをせい、という方向に「業務側」をインテグレーションするということだ。もちろん、サポートの人員は可能な限りゼロにする。

 

要するにロボット前提で、ビジネス・フォーマットから作り直せ、そのフォーマットからは可能な限り人間は排除しろ、ということだ。小売でも介護でもだ。んで、人間はなにするの?という話だが、個人的には「物質的なハードウェアなサービス」ではなく「精神的・メンタル・気持ちとかそんな感じのソフトウェアなサービス」に徹底した方がいいと思っている。また、ロボットのサポートする人間は一部を除けばプロである必要もないと思う。

 

つまり、必要なSIは従来型のSIではなく、従来とはちがうフォーマットなりオペレーションを根本的に作り上げるSIが必要になる。要するに”暴論”を言えば、小売/介護で真面目にロボットとか入れるなら「可能な限り人がいない店舗・介護施設をつくれ」ってことです。中途半端にロボット的なものを入れたところで、余計なしわ寄せが業務側にきて、結局、「なんのためにいれたのかよくわからない」ということになる、というか、すでになりつつある。

 

結局のところの今の結論

今のロボット導入は基本線は「便利ツール」の延長でしかない。したがって人手のリプレースにはならないし、結局、業務からの組み上げがないので、コスト増+人件費増になり、時代の要請には逆行する。本格的に人手不足に対応させるには、フォーマットレベルからの業態変更が必須になる。

 

もっともこれは本来的にはそもそもロボット導入以前の話かもしれない。人手を減らして、ロボット的なものに移行するということは、俯瞰でみれば、労働集約的な産業構造を資本集約的な産業構造に大幅に変更しろ、という要請にも繋がるだろう。そこまで行かなければ、継続的に発生する、ロボットの導入費はもちろん、メンテナンスコスト・SIコストはペイしないだろう。確かに部分的には今後は、就労人口減から人員確保が頭打ちになるので、必然的にそうなるという側面はある。けれども、それ以上に経営主体・現場の意識を変化させないといけない。そうでなければ、人手減の中での無策という意味で、とどのつまりの「政策不在」というルサンチマン的な被害者意識が積み上がるだけだろう。

 

日本に産業史で、「労働集約的な産業構造を資本集約的な産業構造に変更」の代表例は、実は運輸・トランスポーテーションだ。要するに馬車馬・飛脚から車・鉄道になった。皮肉なことに象徴的なアナロジーにもなるが、すなわち、今の流通・介護業界は、「馬車馬・飛脚の時代」なんで、「車・鉄道の時代」にしないと無理よ、とまぁこんな感じなのかもしれない。

 

ロボット・AIでの「インテグレーションの不在」は、現場・経営・政策の同床異夢の成れの果てというよりは、置き去りになっていた流通・介護業界の産業構造の根源的な欠陥が、たまたま顕在化した「結果」だけかもしれない。これを奇貨にして、人口減の中での、自らのあり方そのものを既存の延長にすがるのではなく、新たに問い直すということが可能になるのであれば、その意味では「ロボット・AIでバラ色」という取り込み詐欺的なITマーケも多少の意味はあるのかもしれない。ま、そんな感じ。

 

本年もよろしく。でわでわ。