AmazonのB2Bについて思うところ

もの凄く個人的なまとめですので、その辺はご了承ください。

まずはこのサイト
http://www.amazonsupply.com/

試験的ではありますが、あのAmazonが業務用に手を出してきました、という内容です。まず、慌ててはいけませんが、そのまま普通にB2BAmazonが圧勝かというと全然そんなわけはありません。仮に、日本で同じような商売をAmazonが始めた場合にどうなるか、ということを自分的にちょっと思うところをまとめておきます。

まず日本のB2B的な市場ですが、業務・業界ごとに割とそれぞれ縦割りで展開して成立しています。これはある意味、一種の効率的市場ができていると解釈すべきだと思います。その上、日本の場合の市場規模は、非常に大きい。これは個人の家計よりも、法人の経済活動の方が、日本経済に占める影響が非常に大きいことから考えても容易に分かります。こういった、B2B市場は日本経済の特徴であることはつとに有名です。しかも「ほとんどの」プレイヤーが自分のポジションを持つというのは、実は珍しい。通常はポジションを持たないブローカレッジの方が多いです。まぁ文化的なものと言えると思います。

また、一時期、日本の卸の統廃合の流れと、世界的なB2Bの成長から日本でもネット上のプレイヤーがB2Bに乗り出し、日本を席巻するだろうという話もありました。もはや昔話ですが、結果としてまったく機能しませんでした。他方、商社や卸の統廃合は、ここ十数年で相当進んだという印象です。規模の追求も生き残りを図るレベルまで進み、各プレイヤーもかなりソリッドにはなってきています。簡単にB2Bがリプレースされるほど、やわな環境ではないですね。

もともとB2B市場はB2Cのように極端に波が出るような市場ではないです。これに合致して、大抵のプレイヤーは徐々に変化して効率化を高めるという組織運用になっています。勿論、ガラガラポンという事件もあるのですが、これは、ある耐えきれなくなった状況に、外圧的トリガーが引かれたときに起きるという場合です。

まー以上が2012年現在での状況でしょう。

さて、B2Bに必要な機能は何か、ということを個人的まとめて置きます。大抵は次の4っつですね。これは、ネット系のB2Bがなぜ席巻どころか、消え去ることになったのか、ということにもつながるし、はたまたAmazonがこのセグメントに本格的に参入する場合の必要条件にもなります。

1. 調達機能大きくは二つに分かれます。一つは調達商品の量と質の問題。目利きの問題も含みます。B2B系の調達は基本的に人依存です。取り扱う商品・製品のネイチャー・位置付け・市場の状態がわかっていないと適切に調達・在庫または仲介することができません。まさにノウハウの部分になりますが、これは大抵は人にくっついています。ググってどうにかなる、というものではないですね。

二つ目は継続取引の原則です。安定して供給できるか?ということです。特に一時期のB2Bは投げ売り上等の「ゴミ捨て場」の様相がありました。オークション方式は、商品の供給があって初めて成り立つ市場です。これではマーケットとして成立しません。

2. 販売機能意外に侮れない機能です。今のB2Bの販売の仕方は、というか商談の進め方は非常に効率が良くない、というのはどの業界でも同じです。実際、端からみていても、まぁ非効率きわまりないですね。逆に、大抵のB2Bサイトが商談系のサポート機能が売りになっているのが普通です。というのは、大抵の販売機能は取引条件のマーケット・メイクと商材の情報共有なわけです。わざわざ人と人が顔を合わせてやるものでも無かろう、と。まーこんな感じです。

ところが残念ながら、実際の商談ではスペック・データ以外の情報の方が意外に重要だったりして、簡単にはシステム化できない。なので、商談系のサポート機能は、大抵は張り子の虎になります。特に実際のところ商談系の情報は「多義的なセマンティクスを表現するデータ」になります。この手のデータの取り扱いはITシステムは絶望的に弱いわけで。当たり前と言えば当たり前です。

例えば「Aという商品の売価がXからYになった」というのは、B2Cではまさに売価の変更という意味しかないですが、B2Bではそんな情報はピーナッツです。それ以外のコンテクストにまつわるメタデータの方が全然重要です。普通のバイヤーでも背景の「複数のシナリオ」を考えるはずです。そーゆーことです。(尚、すぐに複数のシナリオを考え、かつ期待値計算込みでアクションを起こすバイヤーが、普通に優秀なバイヤーです。)単純にnarrativeな非正規化データとかいいそうですが、まったく違うので、そう思った人はちょっと残念な感じです。これも歴とした「正規化されたデータ」です。現在のITの技術レベルではハンドルできないでしょう。

3. 物流機能実際問題として、ほとんどのB2B機能の本質はいわゆるdistributionです。これは言葉の意味としても非常に重要で、「流通」に対応する英語は実は、この“distribution”になります。んで、逆にこの意味するところは大抵の場合、「物流」になります。日本語では「流通」というとむしろ「小売」つまりretailの方が意味合いとして大きい。

いわゆる海外のtwo-party model(っていうんですよ。まじめに)では、distributionの責務は基本的にbuyサイドが取ります。sellerは供給義務が主に主体です。大抵の海外のB2Bモデルはコレをそのままもってくるので、実は向こうのB2Bは物流機能は基本的にありません。仲介がメインで、物流はおまけ。

ところが本邦では、先の意味合いで、「流通」=retailになってくると、distributionはどこがやるのか、ということに帰着するわけで、したがって、「真ん中」の文字通りB2Bがやりますよ、というのが実態になります。

さて、物流機能と一概にいったとたんに本が10冊ぐらい出てくるわけで、その辺はパス。庫内やらルーティングやらXDの配置やら複数帯やらなんやら、それこそいくらでも押さえるべきポイントはあります。一応、IT屋的なコメントとしては、商流・物流・情報流の統合ができないと効率的なB2Bはできませんよ、というのははっきりしていると思います。残念ながら、ここは大抵はアトム的な物理情報とビット的なデータのズレが酷く、局所的な効率性に力点が集中してしまい、結果として全体的な効率性が低いのが現状です。

要するに一般いわれているようにオペレーションの最適化とコストの削減だけで乗り切れる状況ではありませんよ、ということです。日本のインフラ・コストの高さは結果として、物流費のコスト高になっているのは事実です。これからはもっと上がるでしょう。文字通り、骨身を削るほどの最適化を行っている現在ですら、(ここはORの研究成果やらいろんな試行錯誤を割と真面目に取りいれている業界の一つです)苦しい。

4. 決済機能端的にいうとファクタリングも含めて、代払いや時間差により発生するリスク負担の機能ですね。さらにレイヤー的になっている決済手法のサポートも必要になります。要は一度に決済されないだけでなく、条件確定ですら段階的になる決済手法、をサポートする必要があるということです。単なる収納代行では意味がありません。はっきり申し上げますが、これは本来、金融機関のお仕事です。このあたりのクリアリングの機能は、日本ではいつまでたっても、金融機関は「効率が悪いのでやらん」でお仕舞なので、どーかとは思いますが・・・・まぁこの辺りの多層的な決済機能は日本ではB2Bの独壇場です。

以上、機能で見た上で、Amazonがどうでしょうか?という思考実験です。以下はマジで適当です。

A.調達機能
はい現状のAmazonでは全く駄目ですね。ただし、今までの外からくるB2B屋と違って、ポジションをとるということについてはリスクを取るよ、と非常にクリアなスタンスなので、うまく行くカルチャーは十分にあると思う。なので、やるとすれば、各セグメントからのコア・バイヤーと営業の引き抜きでしょう。数は必要ありません。IT業界では生産性10倍の定理(できるSEの生産性はできないSEの10倍高い)がありますが、B2Bはざっくり100倍から1000倍あります。一人で1000倍稼ぐ人は居ます。従って少数の若手の中堅エースを抜けば良い。これは近い将来は簡単にできると思う。理由は、日本B2B企業の組織硬直性につきます。さらにいうと異常なまでの正社員比率の高さ。結果として、上は詰まり、若手の活躍の場は異常なほど狭ばります。抜くのは簡単です。

B.販売機能
さて、ここにどこまでITが迫れるのか?というのが個人的には非常に興味があります。正直言うとAmazonの技術力に期待したい。調達機能のように人を入れてレバレッジするという手もありますが、あまり賢くないと思う。また、当然、単純なハリボテのような仕組みでは全然駄目です。要するに、現在のAmazonのWebサイトのようなB2Cの延長上ではまったく機能しないでしょう。これはおそらくWebやTCP/IPでは多分限界が来ると思います。我々の想像を越えるインターフェイスが出てくるどうかが鍵ではないかな、と思っています。多義的な情報をうまく整理するインターフェイスをつくれれば圧倒的でしょう。

C.物流機能
必要にして十分でしょう。Amazonの本質はITでも本屋でもなく物流屋だというのは、衆目の一致するところです。所詮ドライだけじゃん、という人は以下を参考に。
http://fresh.amazon.com/
聞くところによると、このチルドは全部自社だそうで・・・
というわけで、おそらく死角はあまり無い。従ってこの機能は現行のAmazonで普通に提供できるでしょう。

D.決済機能
変な言い方ですが、ここは場合によってはボトルネックになるような気がしています。ある意味先進的な技術でも、人の引き抜きでも解決できない部分だからです。実は個人的に見るところ、この部分は歴史的な経緯も含めて、現状のB2Bの仕組みそれ自体が相当高度で複雑になっています。歴史的経緯も江戸時代まで遡る慣行が未だに残っていることすらあります。このフィールドのシステム化をやったことが人であれば、経験があると思いますが、大抵はさじを投げるはずです。正直マトモな汎用的なシステムにであったことはありません。これをこなすのはいかなAmazonと言えど苦労すると思います。

・・・ということで、もちろん無条件でOKというわけでは全然ないですが、可能性はあるなー、というのが個人的感想です。
そりゃ、Amazonの物流利用して、バイヤーは優秀な人材引き抜いて(すると商流もついて来やすい)、販売手法含めて有機的な情報を結合させて顧客に提供し、柔軟な決済手法が提供されたら、その辺のB2B企業は席巻されるのは当然だと思いますよ。

まーそんな妄想ですが、一応まとめておきますわ。