Amazon Glacierについて

まずはリリース案内
http://aws.typepad.com/aws_japan/2012/08/amazon-glacier-archival-storage-for-one-penny-per-gb-per-month.html

実際のアーキテクチャや使い勝手は今後のレビューを待つとして、まず基本的にS3以上に、既存のDCに対して脅威となるサービスが出てきたと言えるでしょう。

AWSの最大の長所にして最大の短所はS3であることは、まぁ周知の通りです。クラウドで、ほぼ完全にスケールアウトするS3は、事実上AWSの根幹になっています。あまたのサードパーティーに提供されている実績は、他にほぼ競合が見つかりません。他方、また同時に、使いもしないのに置きっぱなしだとコストメリットがかなり下がるという弱点がありました。

これに対して、AWSに技術的にほぼ追いつけない日本のDCの最後のアドバンテージは、肝心の要の「データの保管場所としての安心・安全」です。またはこれはS3への置きっぱなしのコストとも見合いでもあります。エンドユーザーから見るとデータの置き場は国内の身近なDCに、動的な計算リソースの確保や簡易なサイトの立ち上げではAWSに、という一種の切り分けができていました。

AWS Glacierはこの最終的な切り分け崩壊の導火線に火をつけることになると思います。もっとも、この導火線の長さは、今日明日に燃え尽きるというものではないでしょう。けだし、この手の保存・保管サービスは実績が全てです。いくらアーキテクチャがどうだ、コストがどうだ、といっても最終的なデータが無くなりません、という実績がモノを言います。なるほど、たちまちにAWS Glacierにデータバックアップを移管しますよ、というのは、さすがに昨日の今日では、ユーザー数が限られるでしょう。しかし、例えば、今後一年間AWS Glacierでの実績でました+無事故でした、ということになれば、印象はかなり変わります。(逆にいうとAmazon ”Japan”はこのサービスについては一年間無事故で乗り切らなければならないとも言えますが、・・・まぁ乗り切るでしょう。)

ユーザー部門であれば、すぐにわかることではありますが、データの保管コストというものは、実は馬鹿になりません。特に法定データはかなり面倒なコストになります。加えて、活用のメリットが低い、ということであれば尚更です。国内のITベンダーがビッグデータと言って騒いでいる背景の一つにはデータ保管コストが割高だ、という見方もあることは否めないでしょう。

保管コストを回収するために、データの有効活用をしましょう、というのがそもそも現行のベンダーさんの「ビッグデータ」狙いであるのは明らかですが、その一方で現行のランニングは下げずに維持したい、あわよくばストレージの入れ替えもと考えている営業戦略は、今後は腰を折られることも出てくるでしょう。

そもそも保管コストをさげろ、というユーザーさんの直裁な要求に答えたのは、「味方」であるはずの国内DCではなくて、AWSというオチになってしまう可能性も出てきています。その意味では、データバックアップをある意味、最後の拠り所にしていた国内DCは、特にユーザーに対しては非常に厳しい状態に立たされるでしょう。特に今日明日ということではないですが、来年・再来年にはそういう状況になる可能性が高いと思います。

と同時にコスト意識の高いユーザーさんも、判断を迫られることになると思います。この議論は、そもそもデータ自体の価値をどこにおくのか?という議論の再燃です。少なくとも持っている事自体はそれなりにコストがかかるのは現実です。いままでの通りの「建て付け」で行くのかどうかは、一部の準公共系の企業をのぞき、再考させざるを得ないと思います。

Amazon Glacierは、数年のタイムスパンで見た場合、データのあり方そのものに一石と投じるサービスになると思います。データを手元にもっている方が強い、ということは本当に正しいのか?(ま、回り回って最初から何も持たずに他に投資した方が勝ちだった、なんてオチもあるかもしれませんが・・・)

いずれにしても、とうとう始まったな感はありまして。技術力のないDCが、構築をクラウドベンダーに丸投げしたとか、どう見ても重要顧客なのにAWSに逃げられたDCとか、そんな話も実際に見聞きします。技量のない人材を抱えるオーバーヘッドの吸収材料だった日本DCは早晩、存在意義を根本的に問われる羽目になるな、と思います。

いずれにしろ、「データの保管とはどういう意味か?」ということを各自、腰を据えてゆっくり考えるべき時期に来た、ということではないでしょうか。