業務系SEの末路的なお話でして

某DevLoveというところで話をしろ、ということでありましたので、いろいろ話をして来ました。
http://devlove.doorkeeper.jp/events/1733

まとめはこちら
http://togetter.com/li/387189

あと、しんやさんの詳細なブログがこちら
http://d.hatena.ne.jp/absj31/20121009/1349795347

スライドはこちら
http://www.slideshare.net/okachimachi/devlove1

以下、ちょっと自分なりにまとめを。

■自分なりにどう話したか

自分の仕事的にはHadoopとAsakusaでの課題解決が現在の本業です。ただ、Asakusaの位置づけとして、SIのための道具立てという側面が強く、また結果として会社も直接・間接にSIにはかかわっているので、割と現状の問題も意識して行かないといけません。ま、わりとそういった視点を持った上でのプレゼンになりました。

まず、話の基本的な筋としては、IT業界の固有性の話がありますね、というのがスタート地点になります。経験的にIT以外の労働集約的な産業と比べてどうなのか?という話です。特に客観的な数値がある訳ではないのですが、自分の経験した複数の労働集約的な産業(会計士業界・流通業界)と比べると、割といびつな部分があります。(んじゃー、その他の産業にいびつさがないか?といえばそうでもないですが、それはまた違った歪さになります。)

ITでもっとも言われる言葉に「できる奴とできない奴の生産性は10倍違う」という言い方があります。これは言われるだけではなく、実際に体感できることでもあります。しかもSIの現場で割と頻繁にあります。

あれやこれやで10人月がかりで書いたSQLのカタマリがさっぱり動かず、ベテランが一週間で書き直したら問題なく動いた、とかそんな武勇伝は枚挙暇がないですし、普通にその辺に転がっている話でもあります。

勿論、コードを書くという作業が技術的・職人的なところがおおいので、出来る人の生産性が非常に高いということは当然あります。が、その一方で、一瞥しただけでこれはまずいでしょう、というものも簡単に見つけられる事が多い。つまり、そもそも本来的に差がつきやすいという性格がある上で、さらに「ばらつきが酷い」というのが実態でしょう。

これは他の労働集約的業界と比べても、相当に異常で、普通はここまでばらつくと仕事になりません。一人当たりのアウトプットがばらつきすぎると、間接的なオーバーヘッドがかかりすぎて全体の生産性が落ちるからです。なので、通常はばらつかないようにサポートを入れたり、トレーニングをしたり、仕組みを整えたり、そもそもそういった人間を採用しないようにしたりします。

ところが、SI業界は「かかっている人数で売上が決定される」という、効率性とは関係ないところでビジネス・サイズが決定されるというモデルが主流という点と、またユーザー・サイドも事実上「IT人員のアウトソース」という目的でSIを利用しているという点も強いため、中身よりも「かかっている頭数」基準でマーケットが成立してしまっています。

この需給のマッチは結構強力で、多少ショックがあってもそう簡単に崩れないマーケットメカニズムが成立してしまっています。これが痛い。

その結果、ビジネスモデル的に「ばらつきを矯正する力」<「とにかく人を増やす力」ということになりがちです。んで、その結果どうなったか?というと、マクロ的には以下のIPAの結果ですね。

http://www.ipa.go.jp/jinzai/jigyou/docs/global-report_01.pdf
この報告書のp21とp23を比較してください
(尚、購買力比較等の指摘があったので、全文眺めて比較をしてください)

ITサービス技術者数だけであれば、日本はほぼ米国と同等(p21)。そして、お給料様の現状では、平均給与はほぼ米国の半分。アイルランドデンマークフィンランド以下(p23)となっています。

つまり、諸外国に比べて「人が多い+給料が低い」という結論になります。統計データはIT全体なので、一概には言えないとは思いますが、開発・運用といったSI関連の人員が多いのは事実でしょう。

(なお、このIPAの資料は一般には内製化が足らないというコンテクストで語られる事も多いのですが、これは労働力の流動性と、組織内でのモチベーション管理の問題があるので、そう単純な比較にはならないでしょう。加えて、「労働力の流動性は米国が高く、日本が低い」というのは神話に近く、セグメントをちゃんと見るとそうでもないという実証研究も結構出ているようです。内製化の前提については、細かな検討が必要でしょう。
この辺はこのあたりで。http://d.hatena.ne.jp/okachimachiorz/20111030/1319976727)

とはいえ「慢性的な人不足」という状況にも関わらず、気がつくと「なんでこの程度の仕組みの開発にこんなに人がいるんだ?」ということになりがちな現場感覚とも一致します。大規模プロジェクトで、ビル一棟まるまる借りたなんて話も普通に聞いたりします。

よって、結果的に「生産性10倍の定理」が成立するという状態になってしまいます。

こういう状況で、特に若年層の所得に関しては夢も希望もない、という話を冷静にすると以下になります。

1 可処分所得の減少
簡単に言うと消費税増税。いままでのコンテクストは基本的に直関比率の是正とか、まぁ税制政策上のゆがみを矯正していきましょうという流れでしたが、今回以降はもうはっきりしていて「金が足らんのでよこせ」というモードです。実にシンプルですが、その分、財布には容赦がない感じになりますね。その他もろもろ一斉にあがるので、体感的には10%程度の可処分所得の減少になると思います。

2 年金がアウト
要するに払ったものが戻ってきません。自分で貯蓄しろという話です。なので、多少なりとも蓄えに回さないとまずい。本来的に景気維持には貯蓄性向を下げないといかんのですが、ま、逆目に振れますね。若年層にとっては、将来の不安は増加する一方になるので、当然使える金に制限がかかります。

という社会的コストの圧迫のなかで、給与を上げていただきたいのですが、あがりますか?という問題です。

結論からいうと上がりません。
一部で「見も蓋もない」と言われてますが、まぁ見も蓋もないですね。

なぜかというと、そもそも原資がないという話もありますが、あっても全員分をきれいにあげるという方にはいきません。理由はですね・・・

「人数が過剰に多くて、かつ力量に極端に差があるSI事業」の場合は、できる方に金を出すというよりも、まず最初に「できない方の給料を上げない」という施策をとります。んで、その結果に引きずられて、「できる方の給与も据え置く」ということになります。これは実は、出鱈目ではなくて、それなりに(屁理屈に近い)理由があります。すなわち

「他人の給料の上昇による自分のモチベーションのダウンは、同額の自分の給料の上昇では補えない」という、どうしようもない摂理があるからです。このあたりは皆さん程度の差こそあれ体験されていることもおおいでしょう。「なんで、あんな出来ないヤツの方が俺より給料高いわけ?」ってヤツです。んじゃ、その分あなたに上げましょう、というとなぜか「いや、こんなちょっとだけ上がってもあんまり意味ないし」という事になるというアレです。

なので、あげるのであれば、一斉に上げるしかない。(でなければ意図的な自主退職を促すために意図的に差をつけるという方策になる)んで、結局上げられない。という行き止まり状態になります。

給料が上がらなければ、昇進していけばいいじゃないの、という話はありますが、これ基本は年功序列に加えて、PMやらなんやら管理系を登って行かないといけません。いわゆる技術系で昇進するパスは、SIを主軸にしている(含むコンサル)ところではなかなかないのが現実です。ワード・エクセルマスターしか出世しないのか?という壁に当たります。

したがって、給料があがる可能性は特に大手のSI系のビジネスでは限りなく低い。かつ、社会情勢的には実質所得が下がる。なので厳しい。こういうコンテクストです。

ではどうするのか?という話で、このままでいくと厳しいので転職でもするか?という話になりますが、その前に周りを見ましょう。

1. とはいえマーケットは変質していく明確にいうと労働力の供給元が減少するからです。
この辺は、ここを参考にしてもらえると。http://d.hatena.ne.jp/okachimachiorz/20120311/1331467375
・・なので、いやでも「変わっていきます。」ポイントは「なくなる」ということではないです。明確なビジョンのないマーケットとはいえ、相当な需要と供給の奇妙なバランスで出来上がったマーケットの構造はそれなりに強力です。

おそらく規模の縮小がまっさきに来ます。今まで100人月だったところが70人月とか、50人月を25人月でやれとか。経験者の方はすぐわかりますが、もっともきついSIになります。しくじると大炎上する案件が増える。

銀の弾丸アジャイルでという発想はわからくもないですが、そーゆー次元の話ではないですね。

2. そこでどういう立ち位置をとるのか?給料は上がらず、むしろ実質は減少する+マーケットが変容していく、という状況で以下に自分の身を守るか?という話になります。

すたこら逃げだすというのは手ではありますが、まぁそうもいかないでしょう。まずは冷静に自分の手持ちの「武器を増やして」、ちゃんと評価しておくこと、ということだと思います。要はマーケットが変貌して、ある程度の生産性をチームとして要求されるのであれば、手持ちの札が多いほど有利ということです。ただし中途半端に増やしても意味がないので、複数の領域で90点は取れるというところがいいかと思います。(単一のカードで最強を目指すというのは悪くはないですが、その場合は日本のITマーケットは適当ではないですね。とっとと世界を目指すべきです。)

手持ちのカードとして、何を増やすべきかということはスライドにつらつら書いてるのでそちらも見ていただければ。まとめれば簡単で、「勉強しないと”本当に”まずいよ」ということです。

複数のカードを準備しつつ、勿論外に飛び出す情報収集もしながらですが、マーケットの変化を冷静に見ていくということが必要でしょう。なんらかの新しいSIの受け皿的な動きが出てくるはずです。現在のところは出てませんが、その辺りを見ていくのが正解かと。繰り言になりますが、SIマーケットは、減少し変貌していきますが、決してゼロにはなりません。需給バランスの強固さは舐めてはいけません。(とはいえ、マーケットビジョンがないので、なくなるときはどかどか無くなるとは思いますが)

■まとめというような話をしてきました。質問も割とそれなりにでて、盛り上がったのではないかと思います。質疑応答をしていて感じたのは、割とみなさん「安易な転職は考えてはいないが、選択肢としては排除しない」という人が多いのかな、と思いました。「まずは目の前に来そうな(あるいは来ている)危機をどう乗り越えるのか」という感じかと。

現状についての危機感は、かなり持っている人が多く、どうしたもんですかね、という反応が多かったかなと思います。途中グループセッションもあったので、(ま、十分程度のセッションで話をするのは重過ぎる内容ではありますが)それなりに参加されたみなさんは得るものはあったのかな、と思います。

正直、このあたりはSIをやっている事業責任者や経営層には、再考慮を促したいところですね。その上で、危機意識を持っている現場の若手のチーム(ひとりだと、「若造が何言ってやがるモード」で終わるので、そうではなく)と施策を打っていくということが必要かと思います。

以上です。招いていただいた@papanda(市谷さん)には感謝申し上げます。ありがとうございました。