直接費と間接費の間で

全国にいる、管理会計とその関連システムやその辺の担当者は多分1000人ぐらいだと思います。そのうちこの記事に辿り着く人は、0.1%程度だと思うので、約1名位の読者を想定しています。宜しくお願いします。

まず最初に・・・管理会計原価計算)の世界には、「原価計算の歴史は、間接費との戦いである」という名言があります。

おそらく管理会計に関わった人で異論のある人は居ないでしょう。勿論、直接費の管理こそがコスト管理である、という意見もあると思いますが、これは後で議論しましょう。道は半ばではございますが、個人的な間接費との戦いの記録を置いておきます。ほぼ203高地状態。

まず、原価計算の簡単な説明です。世の中のコストはざっくり大別すると、作ったものに直接かかった費用(直接費)と、直接かかったわけではないがどうみても費用としてかかっているでしょう、という費用(間接費)に分かれます。細かい定義は割とべらぼうにありますが割愛。

例としては、サーバーを組み立てるとしましょう。ディスク・メモリー・CPUなどなどの部品のコストがかかりますね。あとは作るのにかかった時間の自分の時給とかもコストですね、そんなものが直接費です。それから、作業場の賃料とか電気代あたりは、直接サーバーを作るコストか?と言われると微妙だな〜、でも確かにお金がかかっていますね、というコストがありますが、これが間接費になります。ざっくりそんなもんです。細かい定義はわりとべらぼうにありますが割愛。

その賃料とか、わりと微妙なコストの費用をどう算定して、サーバーのコストに算入しましょうか?というのが問題になります。大雑把にいうと間接費の原価計算はそんなもんですという理解でいいかと。

んで、以下は個人的な課題とそのメモです。

まず、間接費は大きくは、二つに分かれることが多い。一つは、限りなく直接費に近い間接費(これは製造間接費か?といえば、かなり微妙)と、もう一つは配賦のしようがない完全な間接費(純粋な製造間接費)。両方に問題があります。が、最大の問題はこれが結果として混在することです。

1 完全な間接費
やはり、原則として配賦はまったく根拠がありません、というのが私の現場的、個人的経験です。勿論、異論・理屈はいくらでもありますが、実際上はほとんどがsunkコストです。すなわちデッドコストであることがおおい。製品・サービスへの原価作用因が非常に薄く、特定製品・サービスへの原価の直接性がほぼ認められないコストなので、配賦根拠は無理矢理感が必ずあります。

これらのコストの配賦計算の理由は、制度的に決まっているとか、いろいろありますが、現実的には、一般にいわれるように投下コストの回収可能性の確保でしょう。要するに、かかったコストを回収するために、なんらかの手法で「無理矢理」製品やサービスにチャージする必要があるということです。

この手法は、本当にいろいろあります。いろんな配賦基準を用いたり、再帰的にチャージ金額を算出したり、はたまた原価作用の因果関係をツリー構造にして計算したり、会社によってはこの計算を専業にしている部署すらあります。

理論はいろんな書籍や論文にお任せします。システムを構築してきた経験から思うところをあげます。

1-1. 過剰回収(単なる有利差異ですが)は、結果としての企業の「収益」になった途端に、かなり本末転倒なことになることは自覚すべきだと思います。特に、それが予算化されるようになると、価格競争力は確実に落ちるので、バランスを見ていく事が必要でしょう。これは見事な位、勘違いされます。間接費の配賦の有利差異の意味をちゃんと理解している現場は個人的には見たことがありません。原価計算を設計するときには、「どう見られるか?」ということを意識すべきです。

1-2. 直接原価計算は敗北しているのが現状だと思います。
チャージの論理性がないものはチャージすべきではない、という考え方は個人的に賛成です。しかし残念ながら、俯瞰で見れば発生原価はやはりオペレーションに依存します。ある程度の割り切りは、やはり必要悪として認めざるを得ないでしょう。全てが完全に間接費であればいいのですが、現実には、微妙にコストが直接費に「近い」ものも混在して制御不能になります。

1-3. 基本的に恣意性の排除は無理です。
これは特に一般の人に言いたいです。どういうことになるかというと、間接費の配賦は「政治ネタ」になる数字を提供する可能性が非常に高いということです。ラインを潰すのに、アレコレ根回しする必要はありません。配賦基準をちょっと変えればお仕舞になります。「理屈に合わないので、適正な損益な計算ができるように、計算方法を変えました」これでつぶれてしまうことがあります。

少なくとも事業部なりプロジェクトなり一定のラインを管轄する方は、間接費からの「原価割当状況」は絶対把握すべきです。天下り的なコストなので仕方がない、という人も多いですが、これは嘘です。実際、売れ線の製品に過剰にコストを負担させ、実際は赤字の製品の負担軽減を意図的(かつ隠蔽的に)行うことは普通にあります。結果として、誰もハッピーにならないのですが、無用の用な製品が沢山生き残ります。こういったことは、特に製品の存在意義が販売とは別にある場合によく起きます。

1-4. 間接費の配賦のシステムは、大抵はいい加減である。
まずパッケージ系であれば、放り込みの一択です。一応見直しをやってますよ的な話であれば、普通にエクセル集計。フルスクラッチ系は、ユーザーサイドがよほどしっかりしていないと、そもそもなんでこんな実装になっているんだ、という事になります。個人的経験ではリバースする羽目になったことがありますが、お客さんの言っている仕様とかなり微妙にちがっていることも多いです。そんなこんなで、かなりぐちゃぐちゃなことが多いです。


要するにですね。問題は山積になっていることが多い。この辺は、非常にバランスが悪いです。ユーザーさんのチェックが甘いことが多い上に、SI的にはまっさきに機能削減をしたい部分なので、勢いかなり適当な作りになります。

まず、完全な間接費の取り扱いは以上です。

2. 直接費に限りなく近い間接費

前述の完全な間接費はまだ良いほうです。経験的にもっともやっかいだったのは、直接費に限りなく近い間接費です。例えば、出来た製品やサービスを販売のエンドポイントまで届けるコストなんかもこれにあたります。本来であれば販売費に近いものが多い。確実に特定製品やサービスに紐付けることができますが、間接費になります。

まず原理原則からいうと、完全に期間処理で配賦はしてはいけません。

・・・ところが現実には、そうもいかないのですよ。最終の製品ボトムラインの維持を考えるのであれば、チャージの手法はともかくとして、自社の製品やサービスに、このような間接費のチャージする仕組みは担保しておくことは、適切な損益を維持するという意味でも必須です。

損益上は、特定プロダクトラインに結びつくので、直接損益に影響させます。その上で、大抵の場合は、予算または標準管理に持っていきます。容易に想像がつくと思いますが、この場合、製造原価の標準管理と相まって、普通に多重原価管理になります。(いわゆる二重原価)。

チャージ先を特定化することで、損益負担先が明確にします。ここから先は予算管理的に、通常の標準原価計算の仕組みを適用します。良く有るのは仮想アカウントを作って、内部利益的に処理をする方法や、原価渡しをおこなって一定のパーセンテージをあとから追加的に処理する方法等が取られますね。

ここの設計は業務系にしろ、システムにしろ、割と面倒です。枠的にはいわゆる製造原価の外側になるわけですが、実際は原価計算のコンセプトの「延長上」に処理されます。大抵の場合は、直接費ほど厳密に管理されませんので、例によって割といい加減な仕組みになることが多い。結果的に相当な恣意性(または思いつき)が入ることは否めません。

この費用は制度会計と実務上の隙間に落ちている格好になっており、目配りが滞る割には、金額的には馬鹿になりません。例えば、典型的な例では、販売の受け渡しまでのさまざまなコスト等もこれにあたります。これは今後のエンドユーザーへのサービスの多様化に伴って、このコストをどう評価するのか?という点がよりクローズアップされるでしょう。これは簡単ではありません。(例えば、工場からユーザーに直送で、営業が帳合的に入る場合とか。)この辺りは、割と実務者の経験知でとどまっていることが多く、適切な方法が模索されていますが、ちょっと妙案がない感じです。

3 直接費と間接費の間

そして、最大の問題は上記の2種類の間接費の間にスパッと線が引けない事です。引けない上に、「結果的には両者ともに原価にチャージする」という外形は同じになってしまう点が非常に分かりづらい。特に製造コスト以外の間接コストが馬鹿にならない状態では、取り扱いが難しいです。

対処の仕方は以下の2案です。

1 臭いものには蓋をする。
「最終的にコストが回収できれば、どんな形でもいいのですよ。何をうるさく言っているのですか。今までの慣行でそのままやっていればOK。」これも人生訓ではあります。何も面倒なところに頭を突っ込む必要はありません。コスト回収が出来ていれば、最低限の目標は達成されるわけです。現場の不公平感を除去する義務は、自分の残業代との見合いです、という今時のワーク・ライフ・バランスは自分のモットーです、という人はこれでいいと思います。

ベンダー的なIT屋として立ち会ったならば、まずこちらをおすすめします。COBOLのレガシーコードと同じ扱いですね。鬼神は敬い之を遠ざく。

2 ちゃんと考える。
そもそも何のための管理会計なのか?これでいいのか?やっぱ正しくないと駄目よね、という今時、奇特な倫理感をお持ちの方や、これを機にコストの配賦基準を自分の手駒にしておいて、ヤバいときの為に、某事業部長あたりに貸しをつくろうという腹黒なお方は、まず以下の手順をお勧めします。

2-1 過去の経緯を徹底して調べる。
保証しても良いですが、大抵の間接費の配賦は、よく調べると根拠はたいてい「適当」であることが判明します。とはいえ、適当の根拠は必ずあります。それを絶対に押さえる。地雷を埋めたつもりで、自分が地雷を踏んでいるということは、ありがちです。

2-2 どのコストが何をトリガーにして発生しているのか調べる。
これは丁寧にやると組織や会社や製品の裏の事情が完全に分かります。その途中でいろんな腹黒な人と出会います。お友達になってもよいですし、相互不可侵条約を結んでもよいです。世の中そんなもんです。

ま、冗談は別として、システムにしても、業務にしても金の流れはコストの流れ・情報の流れになります。この流れを把握することは、社内の今後の自分の進行方向を決めるときには、確実にプラスになります。直接費は分かりやすいのですが、間接費はやはり分かりにくいです。その分だけ丁寧な分析は、業務の状況がよくわかります。

2-3 配賦のシミュレーションがやれるようにしておく
本番の基幹系のシステムはともかく、設計するなり、分析するにしても手元で簡単なプログラムが組めることが必須です。とはいえ、まずそれなりのデータが入手できるようになっていることが必要ですね。ここは管理会計の万能ツールのエクセル様の出番ですが、なんかときどき列とか行とか、もの凄い勢いであふれるので、そのときは「おおビッグデータw」とか言って、その辺のHadoop屋でも呼んでください。

2-4 IT的には、ほとんどペイラインに乗らない
・・ということを意識してください。大抵の場合、IT的には直接費の管理に目が行き、間接費はまぁ最後に適当に作ります。・・・そして、要件が膨らんで、実装しないで、CSV+エクセルで終わる。すみません、これ以外のパターンみたことないです。SAPなのに、手前でエクセルで計算してますとか、普通にあります。よって、まともに要件定義もされないですし、まともなシステムの方が圧倒的に少ないです。結果としていつまで立ってもまともな仕組みができないのが現状であります。

4 そして戦いは延々続くわけですよ

そもそもコストの回収というのは、すべてのビジネスの基本になります。直接、目に見えるコストは、誰にでも分かりやすく、そして議論になります。しかし、簡単に目に見えないコストは、わかりにくく、そして放置状態になります。結果、いつの間にか企業経営を蝕む病床になります。メスをいれ、抜本的に手をいれる、という言い方は簡単ですが、しっかり把握をして置かなければ、勢い「固定費の人件費を減らせ」の一本やりになります。

だから地道に丹念にひも解いておく事が肝心ですよ、とそういうことです。システムもこのあたりはいい加減なものも多いです。その辺を前提に、関わる人は完全武装して臨むことをおすすめします。

以上でございます。