エンタープライズでOSSであるということ

エンタープライズOSSについて

こんなこと書くとOSSなモヒカンな人にぶん殴られるわけです。読み手の方で、自分はOSSを引っ張ってきたと自負されている方や組織のかたや、OSSは商用より無条件で優れていると思っている人は気分が悪くなるので、読まないでください。非常に個人的なメモですので。以下の考えは基本的にソフトウェア・ビジネスとしての考えなので、自分で作って、自分で利用して、ムフフな人はあんまり考えてないので、そのつもりで読んでね。自分利用OSSはそれでいいと思うので、それでいいかと。

[まずAsakusaについて]
まずAsakusaがなぜOSSかということを明確にしておきます。非常に単純です。Asakusaは様々な人の意見を集約してできています。これは別にNautilus-technologiesのメンバーというわけではなく、Hadoopコミュニティに参加した方の意見を相当取り入れています。したがって、個人のものや、特定の法人のものではないと思っています。よって必然的にOSSになっています。以上です。・・・あとは戦略的な側面もありますが、これは後半読めばわかると思います。

[そもそもの商用ライセンス販売全体について]さて本題ですが、現状のクラウド全盛期においては、ITマーケット全体でのインストールベースのライセンス・ビジネスは非常に先行きが暗いです。サービス化が進むと、ライセンスよりも提供される価値そのものに焦点が移ります。さんざん言われていたけど、そうなりつつあります。

ベンダーから見ても、ライセンス・ビジネス自体は先行き不透明です。現在のソフトウェアの販売は一部のデファクトを除いて、事実上オープンプライス化し、デフレているのが現実です。これは、つまりマーケットに対して、従来の販売手法が、無効になりつつあることの裏書きにもなっています。クラウド以前から、そもそもソフトウェアの販売は割と厳しい状態でありました。ここへ来て、近い将来はどうなるかは、さらにかなり不透明になってしまっています。

さらにさらに、クラウド系の仮想環境や分散環境に話題を移すと話はより厳しくなります。普通に見ても、仮想化にしろ、分散処理しろ、特定のハードのインストールベースでのビジネスが非現実的になってきています。仮想化のケースではそもそもライセンスの定義が怪しいし、分散環境ではノード数が極端に増えるケースを想定するとライセンスの購入のインセンティブは限りなく下がります。これが現状ですね。

[一方でのエンタープライズOSS?]上記の状態であれば、「だからOSSだ」という言い方は確かに理解できます。

特にサービス化に拍車がかかり、ライセンスの見え方が変わりつつ現在の状況に加え、また、昨今の世界不況から行き場を失ったファンドがベンダーの集約にレバレッジを提供し、結果として、それが独占的な集約と、当然の帰結としての、主要商用ライセンス・ベンダーの麻薬のような無制限のサポートフィーの値上げにつながれば、(それがそもそもは自分らの撒いた種であることを棚に上げて、結果逃避的に)「・・・だからOSSだ」と言い出す事情は、圧倒的かつ絶対的に理解できます。

こういうマーケットの現状で、エンタープライズ市場(ここで言うエンタープライズという意味は、止めたら被害がでますよというシステムの市場です)に関して言えば、OSSと商用ライセンスの違いは、かなり不透明になっています。下手をすると、一義的なリーガルな問題でしかなくなくなってきている可能性すらあります。

いやいやまてまて、そーじゃないだろう、という話があると思うので以下順に思うところを書いておきます。特に、ユーザーレベルから見れば、違いは、品質の問題、コストの問題、と同時によく言われるベンダーロックインの問題ですね。

[品質]
まず、エンタープライズということになった途端に、OSSへの品質要求水準は、普通にプロダクトベースと同じ水準になります。何らかのソフトウェア障害トラブルが発生した時点で、OSSであろうと商用ライセンスであろうと違いはありません。品質と、その維持メンテの要求になります。端的にいうと、通常のOSSにはある意味要求されない水準ですね。ベンダーサポートのない通常のOSSに「品質と継続サポート」を要求することは、理想はともかく、現実的には厳しい。勿論、例外はいくらでもありますが、やはり例外に過ぎません。これは従来からも同じであり、今後も同じだと思います。・・・よってここで、OSSでは品質が担保されません。というお話になります。

まずOSS陣営の方々は、いやそんなことはない。現に某Linuxはですね・・云々、という話になります。曰く、個人の集合的な創意工夫は、エンタープライズの画一的な生産工程よりも品質が実は高い・・と。

違うと思います。個々人の創意工夫は、何にもまして価値創造の源泉だとは思いますが、エンタープライズでの品質の担保は相当規模のチームプレイです。ソフトウェアのエンタープライズへの品質要求を個人プレーの延長線上で「継続的に」カバーすることはできません。品質を維持・向上が可能なのは、サポートにそれなりの企業がバックアップする場合です。

実際どうなのか?というと、現在のところ、ほとんどの主要OSSは、企業のバックアップで成立しています。「伽藍とバザール」の議論は確かにあるとは思いますが、残念ながら、そもそも「名うてのハッカー」のほとんどが「大企業の庇護下でハッキングをしている」現状では、牧歌的なOSSそのものが、一種のパロディにしか見えないのが現状でしょう。企業がその後ろ立てになっているが、今の一般に「エンタープライズで」使われるOSSです。その意味で、品質保持は通常の商用ライセンス並みに維持されています。

この状態では、OSSと商用では品質的な差はそれほどありません。

[コスト]
OSSは只で商用は有償」ってのは実はサポートについては、勿論違います。これはまぁ、もうそうではないでしょう、という意識はユーザーサイドには認識されつつあります。ちゃんとした企業ユースであれば、OSSであろうとサポートにはコストがかかるし、逆に商用が不必要に高い場合はお金は払いませんよ、という形になっています。

基本的にユーザーは投資効果対コストで値段を勘案するので、「明確なメリットのでないコスト」については、負担については消極的になります。大抵は「そのサポートの内容はなんなんだ?」ということが問題になるはずです。OSSとか商用とかは関係ないですね。もちろん「OSSだからサポートをうけなくてよい」という法定自賠責すら期待値計算ですっとばすエンド・ユーザーさんもいるにはいますが、こういうユーザーさんは商用でもサポートはぶっ飛ばします。

要するにサポートコストについてはそれほど受容に違いはありません。

[ベンダーロックイン]
また、良く言われるのは、ベンダーロックインの話です。曰く、商用はベンダーにロックインして手がでない。OSSならソースもあるし、ロックインしませんよ。まず、割と勘違いしている人がいるので、はっきり言っておきたいのですが、「アプリからハードまで自社開発しない限り、ベンダーロックインは必ず発生します」これはOSSだろうが、商用だろうが差はありません。

OSSならば、自分でソースを修正して、手が打てる。」という(敢えていいますが)幻想は、エンタープライズ・システムではまったく非現実的です。商用であってもしっかりしたものは、ちゃんとパッチも出ますし、ワークアラウンドも提示されます。対応できる・できないはOSSと商用の違いではありません。単にベンダーの違いです。

要するにちゃんとしたガバナンスをもって、ベンダーと渡り合わない限り、商用だろうが、OSSだろうが「ベンダーロックイン」は発生すると言っています。

・・・そんなこんなで、実はエンタープライズでは商用とOSSの違いはあまり明確ではないです。ただし、それは従来のOSS万歳的なカルチャーが想定した形とはまったく別の要因と背景で、ということです。

[OSSについての幻想]
端的にいうと、OSSと商用、スーツとギーク伽藍とバザールの、ある種のドグマティックな議論は、対立軸の精鋭化で成り立っていた議論だと思います。伽藍自体が崩れたときの、バザールの位置づけは、当然変わります。ギークの上司がいつのまにやらスーツだったりすれば、これもまた、“ギーク”の位置付けも当然変わります。商用ライセンスが成立しづらい現状での、OSSの位置付けも当然変わりつつあると言えるでしょう。

そもそもOSSは「伽藍とバザール」で表現されている文化や、ライセンスのことの起こりや、その後の論争を見ればわかる通り、その成立の仕方や、発展の背景には、常にアンチテーゼの対象としての、商用のソフトウェアがあったことは否定できません。

悪役(ヒール)としての商用ソフトがあったために成立していたOSSの絶対性は、商用ライセンスのポジションが崩れつつある現状では、もはや過去形になりつつあります。OSSと商用ライセンスという軸がかわりつつあります。残ったのは形骸化した法律論だけ、ということになるか、それとも別の「形態」に変わることができるのか?関わっている人間として、非常に興味があります。

[エンタープライズOSSはそもそも市場として成立するのか]
・・・とはいえ、OSSで食えるのか?やっていけるのか?という話は当然あるわけで。現実的な足下を見れば、エンタープライズOSSは三つの意味で、ビジネスモデルのコンテクストが変わりつつあります。

一つは、OSSに常に言われる、「そもそもどうやって食べるのか?」という問題です。
これは、”そもそもどれだけが食べていければ良いのか?”という問題に、コンテクストが最近は還元されつつあります。サポートを含めた種々のビジネスは、ことエンタープライズ系は「必ず一定のビジネス」にはなりつつあるので。

いわゆるWeb系のOSSとエンプラ系のOSSの最大の違いは、「サポート」であることは上記の通りです。止まると人が死ぬシステムでは「サポート」の要求度合いがまるで違います。マーケットニーズはあります。ただし、額は足らない。しかし、今後はITで食って行かねばならない人間は、そもそも減るだろうという見込みからみて、おそらく、結果としてマーケットの需給は合ってきます。

二つ目は、Not Invented Here症候群に対する緩和剤としての作用です。
Linuxの商用サービス以来、OSSが、日本のSI屋や特にユーザーさんでのNot Invented Here症候群を緩和しているのは事実です。OSSであるか、ないかは大きい。ソースコードが見えるのでその気になればなんとかなる、という糖衣はSI屋さんにとっては効果的なプラセボになっています。ソースがあるからと言って、それがそのまま安全に使えるし、その気になればサポートできる、というのは、(もう一度敢えて言いますが)エンタープライズレベルでは幻想にすぎません。・・なんですが、大手さんの硬直的な組織が幻想が好きなのは、ご存知のとおりです。(逆に言うと、Not Invented Hereも実はあまり根拠がないのも現実だったりします)商用だと「Not Invented Here」といいつつも、OSSならSIで使ってもよい、というところは実は多くなっています。

三つ目は競合優位です。
強烈に先端系の技術はどういうわけだか、OSSで出てくることが多い。これは開発サイドが広く使ってもらうということを意図する結果ではあるとは思いますが、結果として、先端系のソフトウェアの開発への競合排除の副作用をもちます。同じものを作ろうとした場合、競合がOSSである場合、開発予算の獲得のハードルは強烈にあがります。結果として「商用の後追いでない製品をOSSにした場合」過度な競争から排除されることが大きい。

・・・ただし、これはOSSの品質に穴がない場合ですね。品質に問題がある場合は、後追いの商用がどんどん出てきます。また、すでに商用のソフト・ウェアがある場合は、リプレースメントコストがかかる+そもそも先行マーケットが競合状態なので、競合優位にはなりません。

Hadoopはその意味では面白いケースだと思います。まずOSSになっていることは間違いなく商用の競合排除にはなりました。似たような製品で同規模のものは、もう商用では出てこないでしょう。その一方で、打ち手を間違えたと思います。HadoopMR2.0のようなものに手を伸ばすのではなく、まちがいなく2年前の段階でNNのHAにリソースの50%以上を突っこむべきでした。その場合MapRやその他のベンダーは、類似のディストリや偽Hadoopの、開発にはいることを躊躇したはずです。ほとんどの後発”Hadoop”は「NN/HDFSの信頼性問題」の解決だけに注力しているのは理由があります。このあたりはApacheの限界でしょう。

PS:と書いたところで指摘があったので補足しておきます。
http://d.hatena.ne.jp/shiumachi/20120408/1333881928
嶋内さん、ご指摘ありがとうございました。

尚、このブログの記事は御徒町の経験からの個人的な感想なので、どう判断されるかは、読み手にお任せします。)

つまり、エンタープライズでのOSSは、逆説的ではあるが、それなりにやれそうな市場にはなっています。そんな感じです。従来の牧歌的なOSSとは別に、その対立軸の商用ソフトウェアの足下が不透明になってきている+実際のOSSの開発は企業におんぶにだっこですよ、というのが現状であれば、当然位置づけも変わってきますね、そういうことです。

(なので、O.S.S.エンタープライズで行きましょう、というお話で、以上ですよ。別にこのネタが言いたいためだけのブログではないです。念のため)